家は箱じゃなく、感情が戻る場所

家とは何だろう、と考えることがあります。
雨や風をしのぐための箱。眠るための場所。家族が集まる空間。どれも間違いではありません。けれど、それだけでは説明しきれない感覚も、確かにあります。
仕事から帰る途中、信号待ちの赤がやけに長く感じる日。渋滞の中で、早く着いてほしい気持ちと、まだ少しだけ外にいたい気持ちが入り混じる瞬間。そんなとき、ふと「今日はどんな顔で家に入ろうか」と考えることがあります。
家に帰るという行為は、感情を戻すこと
家に帰る、という行為は、単なる移動ではありません。一日のあいだに積み重なった感情を、どこで、どう戻すか。その行き先が「家」なのだと思います。
機能が整うほど、感情は置き去りになりやすい
多くの住宅は、機能的につくられています。動線がよく、収納があり、効率よく生活できるように設計されている。それ自体は、とても大切なことです。
けれど、機能が整えば整うほど、感情の置き場が見えにくくなることもあります。家に入った瞬間から、次の役割が始まる。親として、夫婦として、家族として。やるべきことが自然と目に入り、気持ちを切り替える余地がない。
その状態が続くと、家は「戻る場所」ではなく、「また始まる場所」になってしまいます。
感情が戻るということ
感情が戻る、というのは、喜びや楽しさを取り戻すことだけではありません。疲れた気持ち。張りつめた緊張。うまくいかなかった一日の余韻。それらを無理に消さなくていい。そのまま持ち帰っていい。そう思える場所があるかどうか。
家が箱のままで終わるか、感情が戻る場所になるかの違いは、実はそこにあります。
帰宅動線の中にある、気持ちの急ぎ
南大阪や大阪の暮らしでは、車移動が日常です。仕事帰りは道路が混みやすく、雨の日も多い。駐車して、荷物を持って、傘をたたんで、玄関の鍵を探す。家に入る前から、すでにいくつもの動作をこなしています。
体だけでなく、気持ちも少し急いでいる。そんな帰宅動線の中に、感情を一度ほどける余白があるかどうかは、とても大きな違いになります。
感情が戻る場所は、特別でなくていい
感情が戻る場所は、特別な空間である必要はありません。豪華なリビングでも、広い庭でもなくていい。たとえば、玄関の前で一度立ち止まれる場所。外の空気を感じられる数歩。視線の先に、やわらかい緑や落ち着いた陰があること。
それだけで、気持ちは少し緩みます。切り替えは、意志の力でやるものではなく、景色や距離感によって、自然に起こるものだからです。
「何もしない」が許される場所
感情が戻る場所は、「何かをする場所」である必要もありません。使わなければいけない、活用しなければもったいない、そう思い始めると、その場所は途端に遠くなります。
何もしなくていい。立ち止まるだけでいい。眺めるだけでいい。その曖昧さを許してくれる場所こそ、感情を受け止めてくれます。
家族がいるからこそ必要な、戻るための間
家族がいる家ほど、この「戻るための間」は役に立ちます。帰宅直後は、どうしても気が立ちやすい時間帯です。お腹が空いていたり、段取りがずれていたり、ちょっとしたことで衝突しやすい。
外で一度呼吸してから家に入るだけで、最初の一言が変わることがあります。感情を整えてから家族と向き合える。それは、家族のためでもあり、自分のためでもあります。
夜の帰宅が教えてくれること
夜の家もまた、感情が戻る場所であるかどうかが問われます。暗すぎる外まわりは、気持ちを急かします。明るすぎる照明は、落ち着かせてくれません。
必要なのは、安心できる程度の光。帰宅動線が分かり、影が強く出すぎない灯り。その控えめな明るさが、「ちゃんと戻ってきた」という感覚をつくります。
削ることで生まれる、感情の余地
家を箱として考えると、広さや性能、設備が中心になります。けれど、感情が戻る場所として考えると、必要なのは「余白」と「間」です。
全部を詰め込まないこと。すぐに答えを出さなくていい時間を残すこと。完璧を目指さないこと。その余白があることで、家は、暮らしを支える場所から、心を回復させる場所へと変わっていきます。
家は箱じゃなく、感情が戻る場所
感情が戻る場所は、完成しません。暮らしと一緒に、少しずつ育っていくものです。今日は通り過ぎただけ。今日は立ち止まった。今日は少し長くいた。その日の状態によって、使い方が変わっていい。
もし今、家に帰っても気持ちが切り替わらないと感じているなら。疲れをそのまま持ち込んでしまうと感じているなら。家の中を変える前に、感情が戻る「手前」を見直してみてもいいのかもしれません。
その静かな工夫が、暮らしを少しずつ、やさしいものにしていきます。
読んでくださって、ありがとう。
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